SNS上の誹謗中傷は、単なるマナー違反で終わらない場合がある。投稿の内容や公開範囲、被害の程度によっては、刑事責任や民事上の損害賠償責任が発生する。
侮辱罪と名誉毀損罪の違い
代表的な法律が刑法230条の名誉毀損罪と231条の侮辱罪だ。
| 比較項目 | 名誉毀損罪 | 侮辱罪 |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 刑法230条 | 刑法231条 |
| 主な要件 | 公然と事実を摘示して名誉を毀損 | 公然と人を侮辱 |
| 事実の摘示 | 必要 | 不要 |
| 2026年の法定刑 | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 | 1年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金、拘留または科料 |
| 親告罪 | 原則として親告罪 | 原則として親告罪 |
名誉毀損罪は、具体的な事実を公然と示し、他人の社会的評価を低下させる行為が問題になる。
例えば、SNSで特定の人物について犯罪行為や不正行為をしたと断定する投稿を公開した場合などが考えられる。
ここで注意したいのは、投稿内容が真実であれば必ず適法になるわけではないことだ。公共の利害に関する事実であること、公益目的が認められること、真実性の証明があることなど、刑法230条の2に定められた特例の要件が関係する。
侮辱罪は、具体的な事実を示さなくても、公然と人を侮辱した場合に成立する可能性がある。
例えば、SNS上で特定の人物を人格的におとしめる投稿を繰り返す行為などが問題となる。
2025年6月から拘禁刑に変更
侮辱罪は2022年7月7日から法定刑が引き上げられた。
従来の「拘留または科料」に加え、1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金が設けられた。
その後、刑法改正による拘禁刑の創設が2025年6月1日に施行されたため、2026年現在の条文では「1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」となっている。
法務省は2025年7月の大臣記者会見でも、この制度変更と侮辱罪の施行状況の検証について説明している。
誹謗中傷による損害賠償と慰謝料
刑事責任とは別に、民法709条の不法行為責任などに基づく損害賠償請求も考えられる。
請求の対象となり得るのは、次のような損害だ。
- 精神的苦痛に対する慰謝料
- 投稿者の特定に必要となった調査費用
- 弁護士費用のうち法的に認められる範囲
- 誹謗中傷によって発生した具体的な経済的損害
ただし、投稿が不快だったという理由だけで必ず賠償が認められるわけではない。権利侵害の有無、投稿の内容、被害の程度、因果関係などが個別に判断される。
また、刑事事件で処罰されたからといって、民事上の損害賠償額が自動的に決まるわけでもない。
法テラスも、インターネット上の誹謗中傷について、発信者情報開示請求、削除依頼、慰謝料請求などの方法を案内している。
【被害者が取るべき対応】発信者情報開示請求と投稿削除の方法

誹謗中傷の被害を受けた場合、感情的に反論するよりも、証拠を確保し、適切な手続きにつなげることが大切だ。
まず投稿の証拠を保存する
削除を申し立てる前に、可能な限り投稿の記録を残しておく。
保存したい情報は次のとおり。
- 問題の投稿が掲載されている画面のスクリーンショット
- 投稿のURL
- 投稿者のアカウント名やID
- 投稿日時
- 投稿本文と前後のやり取り
- 引用、転載、再投稿などの拡散状況
- 運営会社との問い合わせ履歴
投稿者がアカウントを削除したり、投稿を非公開にしたりすると、後から証拠を集めることが難しくなる場合がある。
警察庁も、サイト名、URL、投稿者、書き込み日時、内容などを記録しておくよう案内している。
発信者情報開示請求とは何か
発信者情報開示請求とは、インターネット上で権利侵害を受けた人が、投稿者を特定するために、プラットフォーム事業者やプロバイダなどに発信者の情報の開示を求める制度だ。
匿名アカウントによる投稿でも、一定の法的要件を満たせば、投稿者の氏名や住所などを特定できる可能性がある。
一般的な手続きの流れは次のようになる。
権利侵害に該当する投稿を確認する
投稿内容、掲載場所、日時、権利侵害の具体的な内容を整理する。
プラットフォーム事業者に開示を求める
投稿に関連するIPアドレスなど、発信者情報の開示を請求する。
必要に応じて裁判所の手続きを利用する
発信者情報開示命令事件などを申し立て、情報の開示や通信記録の保全を求める。
プロバイダに情報開示を求める
通信記録などを手掛かりに、契約者情報の開示を求める。
投稿者に対する法的措置を検討する
特定された相手に対して、損害賠償請求や刑事告訴などを検討する。
2022年10月1日に施行された改正法では、従来は複数の裁判手続きが必要になることが多かった発信者特定について、発信者情報開示命令という一体的な裁判手続きが導入された。
また、必要な通信記録を保全するための提供命令や消去禁止命令も整備された。
ただし、すべての匿名投稿者を必ず特定できるわけではない。投稿に関連する記録が残っているか、権利侵害が明らかか、開示を受ける正当な理由があるかなどが審査される。
特に通信記録には保存期間の問題があるため、投稿者の特定を考えている場合は、早めに弁護士へ相談することが望ましい。
投稿削除請求はどこに申し立てる?
投稿の削除については、SNSや掲示板の運営会社が設置している通報機能や削除申請フォームを利用できる。
法的な権利侵害が疑われる場合は、法務省の案内する削除依頼の手引きも参考になる。
具体的な流れは次のとおりだ。
1. 投稿のURLと証拠を保存する。
2. 投稿が侵害している権利を整理する。
3. 運営会社の削除基準を確認する。
4. 指定されたフォームや手続きから削除を申し立てる。
5. 対応されない場合は法務局や専門相談機関に相談する。
削除依頼では、単に「不快だから消してほしい」と伝えるのではなく、どの権利がどのように侵害されているかを具体的に示すことが大切だ。
【2026年最新の法制度】情報流通プラットフォーム対処法で何が変わった?
2025年4月1日に新制度が施行
2026年の誹謗中傷対策を理解するうえで欠かせないのが、情報流通プラットフォーム対処法だ。
正式名称は「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」。
従来のプロバイダ責任制限法を改正し、2025年4月1日に施行された。
この改正では、一定の規模や要件を満たす大規模プラットフォーム事業者に対し、権利侵害情報への対応を迅速化し、運用状況を透明化するための義務が設けられた。
大規模プラットフォーム事業者に求められる対応
主な義務は次のとおりだ。
1.削除申出の受付方法を公表する
被害者が誹謗中傷などの権利侵害情報について削除を申し立てられるよう、受付方法や手続きを明確にする。
2.削除申出への対応を迅速化する
申出を受け付けた後、必要な判断を行い、原則として7日以内に申出者へ結果を通知する仕組みが設けられている。
3.削除基準を公表する
どのような情報を削除対象とするのか、判断基準を整備して公表する。
4.削除した場合に発信者へ通知する
投稿を削除した際には、原則として投稿者にも削除に関する情報を通知するなど、運用の透明性を確保する。
ただし、7日以内というのは対象となる大規模事業者に関する通知の期限であり、すべての投稿が7日以内に削除されるという意味ではない。
また、申立てをすれば必ず削除される制度でもない。投稿内容と権利侵害の有無について個別の判断が必要になる。
2026年はプラットフォームの責任も議論の対象に
2026年には、総務省の検討会でも権利侵害情報の発信・拡散や、プラットフォーム事業者による削除対応のあり方が議論されている。
特に問題となっているのは、投稿そのものを削除するだけでなく、転載やおすすめ表示などを通じて被害が拡大する構造だ。
AIによって生成された画像や文章、虚偽情報の大量拡散なども、今後の課題として浮上している。
法律による削除手続きの整備と、各サービスによる日常的な監視・通報対応を組み合わせることが求められている。
【被害者支援と自殺予防】誹謗中傷を受けたときの相談窓口
誹謗中傷を受けた人が最初に必要とするのは、必ずしも法的措置とは限らない。
精神的に追い詰められている場合は、安心して話せる相手や専門家につながり、生活と心の安全を確保することが先決だ。
誹謗中傷の被害に対応する専門相談機関
| 相談先 | 主な対応内容 |
|---|---|
| 違法・有害情報相談センター | 投稿削除やインターネット上の権利侵害への対処方法を助言 |
| 法務省の人権相談 | インターネット上の人権侵害について相談。事案に応じて削除要請 |
| 誹謗中傷ホットライン | プロバイダ等に利用規約に沿った削除対応を促す |
| 法テラス | 弁護士への相談や法的手続きに関する案内 |
| 警察相談窓口 | 脅迫、個人情報の晒し、犯罪に該当する投稿などの相談 |
それぞれの役割には違いがある。
例えば、違法・有害情報相談センターは、被害者自身が行う削除対応について専門的な助言をする機関だ。一方、誹謗中傷ホットラインは相談者の個別相談を行う窓口ではなく、国内外のプロバイダなどに削除対応を促す通知を行う。
法務局は、人権侵害に該当すると認められる情報について、事案に応じてプロバイダなどに削除要請を行うことがある。
心のケアや自殺予防に利用できる相談窓口
#いのちSOS
0120-061-338
自殺対策支援センターライフリンク。死にたい、消えたい、生きることに疲れたといった気持ちを専門の相談員が受け止める。
よりそいホットライン
0120-279-338
暮らしの問題、人間関係、孤独、不安など幅広い悩みを相談できる。外国語による相談にも対応。
24時間子供SOSダイヤル
0120-0-78310
いじめや学校生活の悩みなどを、子どもや保護者が夜間・休日を含めて相談できる。
子どもの人権110番
0120-007-110
平日8時30分~17時15分。いじめや学校での人権侵害について相談できる。
出典:厚生労働省、文部科学省、法務省の各相談窓口案内。受付状況は変更される場合がある。
被害者を支える家族や友人ができること
周囲の人ができる最も重要な支援は、被害者の話を否定せずに聞くことだ。
「ネットのことだから気にしなくていい」「アカウントを消せば解決する」といった言葉は、本人の苦痛を軽視されたと感じさせる可能性がある。
代わりに、次のような対応が望ましい。
- 何が起きているのか、本人のペースで話してもらう。
- 被害を受けた本人に責任を押し付けない。
- 一緒に証拠を保存し、必要に応じて通報する。
- 学校、職場、家族など、安心できる支援者につなぐ。
- 睡眠や食事、日常生活に支障が出ていれば医療機関への相談を勧める。
- 自殺を考えている様子があれば、遠回しにせず本人の安全を確認する。
特に、自分を傷つける可能性が差し迫っている場合は、一人にせず、119番や救急医療機関につなぐ。生命に関わる脅迫などがあれば110番への通報も必要だ。
誹謗中傷を防ぐためにSNS利用者が意識すべきこと
誹謗中傷対策は、被害者が対処するだけでは十分ではない。
投稿する側、拡散する側、プラットフォームを運営する側にも責任がある。
特に気を付けたいのは、他人の投稿を引用・転載する行為だ。
自分で最初の悪口を書いていなくても、他人の中傷を拡散することで新たな被害を生み出す可能性がある。
また、匿名アカウントだからといって法的責任を免れるわけではない。投稿者の特定につながる情報が開示され、民事・刑事の責任を問われる場合がある。
SNSを利用する際は、投稿する前に、事実関係を確認すること、個人情報を公開しないこと、攻撃的な言葉を拡散しないことを意識したい。
【誹謗中傷自殺に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:誹謗中傷が原因で自殺した場合、投稿者は罪に問われますか?
投稿内容や行為によって、侮辱罪、名誉毀損罪、脅迫罪などが成立する可能性がある。また、民事上の損害賠償責任が発生する場合もある。ただし、投稿者に自殺の結果についてどのような法的責任があるかは、具体的な行為、予見可能性、因果関係などを踏まえた個別の判断が必要になる。
Q2:SNSの匿名アカウントでも投稿者を特定できますか?
特定できる場合がある。情報流通プラットフォーム対処法に基づく発信者情報開示請求や裁判所の発信者情報開示命令などを利用できる。ただし、通信記録の保存状況や権利侵害の要件などによって結果は異なる。
Q3:誹謗中傷の投稿は削除してもらえますか?
SNSや掲示板の運営会社に削除を申し立てることができる。名誉毀損やプライバシー侵害などが認められる場合は、法務局への相談や削除要請も検討できる。ただし、申請した投稿が必ず削除されるわけではない。
Q4:誹謗中傷による精神的苦痛で慰謝料を請求できますか?
権利侵害が認められれば、民法上の不法行為に基づいて慰謝料や損害賠償を請求できる可能性がある。投稿内容、被害の程度、証拠などによって判断される。
Q5:誹謗中傷を受けて精神的につらい場合、どこに相談すればよいですか?
精神的な苦痛については、#いのちSOS(0120-061-338)や、よりそいホットライン(0120-279-338)に相談できる。投稿の削除や法律上の問題については、違法・有害情報相談センターや法務省の人権相談が相談先となる。
Q6:2026年の誹謗中傷対策で最も重要な法律は何ですか?
刑法の侮辱罪・名誉毀損罪に加え、2025年4月1日に施行された情報流通プラットフォーム対処法が重要だ。前者は投稿者の刑事責任、後者は発信者情報の開示や大規模プラットフォーム事業者の削除対応などを定めている。
まとめ:【プロの結論】誹謗中傷と自殺を防ぐために必要な社会の対応
誹謗中傷と自殺の問題を考えるとき、最も避けなければならないのは、被害者の苦しみを単純な言葉で片付けることだ。
SNS上の攻撃は、精神的苦痛や孤立を深める要因になり得る。研究でも、サイバーいじめと不安、抑うつ、自傷行為、自殺関連行動との関連が示されている。一方、自殺の背景は複合的であり、特定の投稿だけを死亡の直接原因と断定することはできない。
2026年の状況を踏まえると、今後の誹謗中傷対策には、次の3つの視点が欠かせない。
第一に、被害を受けた人を孤立させないこと。
投稿の削除や法的措置だけでは、精神的な傷がすぐに回復するわけではない。家族、友人、学校、職場、医療機関などが連携し、継続的に支える仕組みが必要だ。
第二に、投稿者の責任を適切に問える環境を整えること。
侮辱罪の厳罰化、発信者情報開示請求、情報流通プラットフォーム対処法など、法制度は段階的に整備されている。被害者が泣き寝入りせず、削除や損害賠償を求められる環境を実効性のあるものにしなければならない。
第三に、自殺予防を社会全体の課題として捉えること。
2025年の小中高生の自殺者数538人という数字は、子どもたちが抱える問題の深刻さを示している。こども家庭庁も2026年4月に「こども・若者 自殺防止総力戦略」を公表し、早期把握や関係機関の連携を強化する方針を示した。
誹謗中傷を受けている人に必要なのは、我慢することでも、SNSから一人で逃げ続けることでもない。安心できる環境を確保し、相談できる相手を見つけ、必要な支援を受けることだ。
そして、投稿する側にも、画面の向こうには生活や感情を持つ一人の人間がいるという認識が求められる。
ネット上の言葉には責任が伴う。被害を受けた人を守ること、加害行為を止めること、そして誰も孤立させないこと。この3つを同時に進めることが、誹謗中傷による深刻な被害と自殺を防ぐための出発点となる。
※この記事は2026年11月時点の公的資料、法令、研究論文、報道資料に基づく一般的な解説です。個別の法律問題については弁護士などの専門家にご相談ください。