- あごが長い理由: 高畑勲監督が「美男だけど一ヶ所バランスを崩してみてはどうか。たとえばアゴとか」と提案したため。 デザイン担当: 人物造形・作画設計を担当した田辺修氏が制作。石作皇子として描いたキャラクターを御門に転用する案もあった。 演出上の意味: 美男子としての整った顔に違和感を加えることで、御門の印象を際立たせている。 ネットの反応: 地上波放送をきっかけに、長いあごがSNSで話題になった。 制作資料: 『THE ART OF かぐや姫の物語』にデザインの経緯が記録されている。
【結論】御門(帝)のあごが長い理由は高畑勲監督の提案だった

最初に答えを整理すると、御門のあごが長くなった直接の理由は、キャラクターデザインを検討する段階で高畑勲監督が田辺修氏に、顔のバランスを一部分だけ崩すアイデアを提案したことです。
田辺氏は美術資料集『THE ART OF かぐや姫の物語』のキャラクター設定に関するコメントで、当初は御門を「最もきれいな顔」にしたいと考えていたことを明かしています。
その際、高畑監督から出た提案が、あごを例に挙げた顔のバランスの変更でした。この助言を受けて、現在知られている独特の御門の顔が完成しました。
「美男だけど一ヶ所バランスを崩してみたらどうか。たとえばアゴとか」
高畑勲監督の提案として『THE ART OF かぐや姫の物語』に収録された田辺修氏のコメントから抜粋。
つまり、作画の失敗や偶然の産物ではありません。意図的に顔の均衡を崩した結果なのです。
このエピソードは、2018年5月18日に金曜ロードショーの公式Xアカウントでも紹介され、御門のあごが生まれた経緯として広く知られるようになりました。
【制作秘話】田辺修が考えた御門の初期デザインとは?
御門のあごを理解するには、人物造形・作画設計を担当した田辺修氏の仕事と、初期デザインの経緯を知る必要があります。
当初は石作皇子として描かれたキャラクターだった
意外なのは、現在の御門の原型となったキャラクターが、もともと石作皇子として描かれていたという点です。
石作皇子は、かぐや姫に求婚する5人の貴公子の一人です。物語では、それぞれの男性が姫から難しい宝物を求められ、求婚を試されます。
田辺氏は、石作皇子として描いた人物を御門に変更する案も検討していました。もともとの方向性は、誰が見ても美しいと感じるような端正な男性の顔だったのです。
ところが、御門という人物のデザインを決める段階で、高畑監督から顔のバランスを一部分だけ崩すという提案が出ました。
その結果、顔全体は整っているのに、あごだけが極端に長いという、ほかの登場人物には見られない特徴が生まれました。
中村七之助の声もキャラクター造形に影響した
もう一つ注目したいのが、御門の声を担当した歌舞伎俳優・中村七之助氏の存在です。
田辺氏のコメントによると、中村七之助氏の声には若々しさがあり、それに合わせて御門の造形も、より高貴で清潔感のある方向に調整されました。
つまり、御門のデザインは単にあごを長くしただけではありません。声の印象と顔の造形を組み合わせながら、キャラクター全体のイメージを完成させたものです。
顔の一部分には強烈な個性がある一方、全体としては高貴さを保っている。このアンバランスな設計こそ、御門が強く記憶に残る理由の一つです。
【人物相関・制作データ】御門と石作皇子、高畑勲、田辺修の関係
御門のあごの制作秘話に関係する人物と作品情報を整理すると、次のようになります。
この関係で特に重要なのは、高畑監督と田辺氏の役割の違いです。
高畑監督は作品全体の演出意図を示し、田辺氏は人物造形・作画設計の専門家として、キャラクターの具体的な形を作り上げました。御門のあごは、この両者の制作上の判断が結び付いて誕生したものです。
また、石作皇子の声を担当したのは上川隆也氏です。石作皇子と御門は別々の登場人物であり、初期デザインのエピソードと実際の映画での配役を混同しないことも大切です。
これらのスタッフ・キャスト情報は、スタジオジブリの作品紹介および美術資料集の出版情報でも確認できます。
【演出上の意味】なぜ高畑勲監督は御門の顔をわざと崩したのか?
ここからは、デザインの制作経緯と映画本編の描写を結び付けて考えてみます。
監督があごを長くする提案をした事実は制作資料で確認できます。一方、その造形にどのような物語上の意味を持たせたのかについては、映画の演出から読み取れる解釈も含まれます。
1. 美男子でありながら、どこか違和感のある人物にする
御門の顔は、あご以外の部分を見ると、比較的整った高貴な顔立ちです。若々しい声とも相まって、第一印象には品のよさがあります。
しかし、顔の下半分に視線を移すと、極端に長いあごが目に入ります。
この特徴によって、御門は一般的な美男子キャラクターとは異なる存在になっています。整った顔に一つだけ強烈な違和感を加えることで、見る人の印象に残るデザインが成立しているのです。
2. 権力者の外見と内面のギャップ
御門は、作中で大きな権力を持つ人物として登場します。かぐや姫の評判を聞き、宮廷に出仕するよう求める立場です。
ところが、彼の振る舞いは必ずしも高貴な人物にふさわしいものではありません。
かぐや姫が出仕を望まないにもかかわらず、御門は自分の判断で彼女に接近します。物語後半では、翁の屋敷を訪れ、かぐや姫を背後から抱き寄せる場面も描かれます。
この場面では、地位や権力を持つ人物であっても、相手の意思を尊重しない行動が問題として浮かび上がります。
そこに、どこか不安定で異様な御門の顔が重なることで、視聴者は彼に対して単純な憧れを抱きにくくなります。
3. かぐや姫の拒絶を視覚的に印象付ける
本作の中心にあるのは、かぐや姫が自分らしく生きようとする姿です。
都での生活、貴族たちからの求婚、宮廷で求められる振る舞いなど、彼女は周囲の期待に応えようとする環境に置かれています。
その中で、御門による突然の接触は、彼女の意思が踏みにじられる象徴的な出来事になります。
長いあごそのものが拒絶の理由だと公式に説明されているわけではありません。しかし、あの特徴的な顔と場面の不快感が結び付くことで、御門という人物の印象がより強烈になっていることは読み取れます。
つまり、御門のあごは単なるコミカルな外見上の特徴としてだけではなく、映画の緊張感や人物描写を考えるうえでも興味深い要素なのです。
【作画の特徴】『かぐや姫の物語』はなぜ普通のジブリ作品と違って見える?
御門のあごを語るうえで、作品全体の作画表現も見逃せません。
『かぐや姫の物語』は、一般的なアニメーションのように輪郭を均一に整えた映像とは異なり、水彩画や日本画を思わせる線と色彩を生かした作品です。
筆のかすれや線の勢いを生かした映像表現
本作では、人物の輪郭が場面によって揺れたり、線が荒々しくなったりする表現が使われています。
特に、かぐや姫が感情を爆発させて走る場面では、人物の動きと線の勢いが一体となり、絵がそのまま感情を表しているように感じられます。
背景にも余白が生かされており、すべてを細かく描き込むのではなく、必要な線や色を選ぶことで、見る人の想像力を引き出しています。
人物造形と背景美術の専門スタッフ
本作の人物造形・作画設計を担当したのが田辺修氏、美術を担当したのが男鹿和雄氏、作画監督を務めたのが小西賢一氏です。
高畑監督が求めたのは、人物の動きや感情が自然に伝わる映像でした。そのため、人物の顔だけでなく、歩き方、走り方、姿勢など、細かな身体表現も作品の大切な要素になっています。
御門のあごも、こうした人物造形へのこだわりの中で考えられたデザインです。単に見た目の面白さを狙うのではなく、キャラクターを一目で印象付ける造形として機能しています。
なお、制作過程のスケッチ、レイアウト、原画、背景画などは、2013年12月24日に発売された『THE ART OF かぐや姫の物語』に収録されています。A4判240ページの資料集で、田辺氏や男鹿氏、中村圭介氏らのインタビューやコメントも掲載されています。
【ネットの反応】帝のあごはなぜSNSで話題になった?
御門の長いあごは、映画の制作秘話が知られる前から、視聴者の間で印象的なポイントになっていました。
特にテレビ放送の際には、御門が登場する場面で、その特徴的な顔立ちに注目が集まりました。
地上波放送が注目されるきっかけに
CINEMAS+が2018年5月18日に掲載した作品解説では、以前の地上波放送時に、御門の長いあごがTwitter上で盛んに話題になったことが紹介されています。
また、同日の金曜ロードショー公式Xアカウントも、御門のキャラクター設定を取り上げました。
公式の紹介では、最もきれいな顔を目指していたものの、高畑監督の提案によってあごのバランスを崩したという制作秘話が説明されています。
単に特徴的な顔として話題になっただけでなく、制作の裏側まで知られるようになったことが、御門のあごに対する関心を広げた要因です。
ハプスブルク家の顎がモデルという説は本当?
御門の長いあごについて調べると、ヨーロッパの名門王家で知られるハプスブルク家の特徴的な顎と比較する考察も見つかります。
ハプスブルク家には、下あごが前方に突出した顔立ちが見られる人物がいたことで知られています。そのため、御門の顔を見て歴史上の王族を連想する人がいるのも不思議ではありません。
ただし、御門のデザインがハプスブルク家を直接モデルにしたという制作上の裏付けは確認できません。
実際に確認できる制作経緯は、田辺氏が高畑監督からあごのバランスを崩す提案を受けたというものです。したがって、ハプスブルク家説は視聴者による比較・考察として扱うのが適切です。
花園天皇像と高畑勲監督の美術観
もう一つ興味深いのが、鎌倉時代末期から室町時代にかけての花園天皇像との関係です。
映画に直接登場するわけではありませんが、BuzzFeed Japanの安藤健二氏による解説では、高畑監督が学生時代に花園天皇像を見て強い印象を受けたことが紹介されています。
花園天皇像は、一般的な理想化された肖像画とは異なり、人物の顔立ちを特徴的な線で表現した作品です。
高畑監督は著書『一枚の絵から 日本編』で、この肖像画について、顔の特徴をありのままに捉えることと、戯画的に見えることの違いを論じています。
この美術観は、『かぐや姫の物語』の人物造形を考えるうえでも興味深い背景です。ただし、花園天皇像が御門の長いあごの直接的なモデルだったと断定できる資料はありません。
御門のあごについては、制作資料に記された高畑監督の具体的な提案と、日本美術に対する監督の関心を分けて理解すると、より正確に作品を楽しめます。
【ジブリかぐや姫のあご】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ジブリ『かぐや姫の物語』の帝のあごが長いのはなぜですか?
A1:高畑勲監督が人物造形を担当した田辺修氏に、美男子の顔の一部分だけバランスを崩すことを提案したためです。具体例としてあごが挙げられ、現在の特徴的なデザインになりました。
Q2:御門のあごをデザインしたのは誰ですか?
A2:人物造形・作画設計を担当した田辺修氏です。高畑監督の演出上の提案を受けて、御門の顔を完成させました。
Q3:御門の初期デザインは石作皇子だったのですか?
A3:田辺氏のコメントによると、石作皇子として描いたキャラクターを御門に変更する案が検討されていました。最初から現在の長いあごを持つデザインだったわけではありません。
Q4:御門の声優は誰ですか?
A4:歌舞伎俳優の中村七之助氏です。田辺氏は、若々しい声の印象に合わせて、御門の顔をより高貴で清潔感のある造形にしたと説明しています。
Q5:御門のあごはハプスブルク家がモデルですか?
A5:そのような比較や考察はありますが、制作スタッフがハプスブルク家をモデルにしたと明言した記録は確認できません。制作資料で説明されている直接の理由は、高畑監督による顔のバランスを崩す提案です。
Q6:御門のあごの制作秘話はどの本で確認できますか?
A6:徳間書店から2013年12月24日に発売された『THE ART OF かぐや姫の物語』です。キャラクタースケッチや原画、背景画、スタッフインタビューなどが収録されています。
Q7:映画の中で御門はなぜかぐや姫に嫌われたのですか?
A7:かぐや姫の意思を尊重せず、宮廷への出仕を求めたうえ、翁の屋敷で突然後ろから抱き寄せたためです。この出来事は、かぐや姫が月へ帰りたいと願う物語の重要な転機として描かれています。
まとめ:御門の長いあごは高畑勲監督が生み出した意図的なデザイン
ジブリ『かぐや姫の物語』に登場する御門の長いあごは、作画の失敗でも偶然の産物でもありません。
その誕生には、人物造形・作画設計を担当した田辺修氏と、高畑勲監督の具体的なやり取りがありました。
当初、田辺氏は御門を最も美しい顔にしようと考え、石作皇子として描いたキャラクターを転用する案も検討していました。そこに高畑監督が「美男だけど一ヶ所バランスを崩す」という提案を加え、あごを長くする独特のデザインが完成したのです。
加えて、中村七之助氏の若々しい声に合わせて、高貴さや清潔感も加えられました。結果として、整った顔と極端に長いあごという、強烈な個性を持つキャラクターが誕生しました。
御門のあごを理解する際に押さえておきたい要点は、次の3つです。
- 制作上の事実: 高畑勲監督の提案によって、意図的に顔のバランスが崩された。
- 人物造形の工夫: 田辺修氏が声の印象も取り入れ、御門の高貴な雰囲気を作り上げた。
- 演出上の見どころ: 特徴的な顔立ちが、権力者としての御門の存在感や、かぐや姫との緊張感を際立たせている。
御門のあごは、単なるネット上の笑い話で終わるデザインではありません。制作資料を読むと、ほんの一部分の造形を変えるだけで、キャラクターの印象や物語の受け止め方まで変わることが分かります。
映画を見返す際には、ぜひ御門の顔だけでなく、かぐや姫との距離感や表情、行動にも注目してみてください。高畑勲監督が細部に込めた人物描写の工夫が、また違った形で見えてくるはずです。