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【4】脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔・全身麻酔の違いを比較

榊原 真央 榊原 真央 • 更新: • 公開: • 読了約 15 分
目次

麻酔の名前が似ているため、脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔を同じ方法だと思っている人もいます。

どちらも背中から薬を投与する区域麻酔ですが、薬を注入する場所や効果の現れ方、持続時間、術後の痛みへの対応などが異なります。

脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔の違い

比較項目 脊髄くも膜下麻酔 硬膜外麻酔 全身麻酔
薬を注入する場所 脊髄くも膜下腔 硬膜外腔 静脈・気道など
主な作用 下半身の痛覚を遮断 手術部位の痛みを遮断 意識と痛みの感覚を抑える
意識 基本的にある 基本的にある ない
効果の現れ方 比較的速い 比較的ゆっくり 比較的速い
投与方法 一回の注入が基本 カテーテルから追加投与可能 麻酔薬を継続投与
効果時間 薬剤によって数時間 追加投与で調整できる 投与中は維持できる
術後鎮痛 別の鎮痛方法を組み合わせることがある カテーテルを利用できる 別の鎮痛方法を組み合わせる

この比較から分かるのは、脊髄くも膜下麻酔は速やかな効果発現に優れ、硬膜外麻酔は持続的な薬剤投与に適しているということです。

全身麻酔は意識をなくして手術を受ける方法であり、両者とは麻酔の基本的な仕組みが異なります。

硬膜外麻酔はなぜ追加投与できる?

硬膜外麻酔では、背中から細いカテーテルを硬膜外腔に留置します。

その管を通じて局所麻酔薬や鎮痛薬を追加できるため、手術が長引いた場合や術後の痛みが続く場合にも対応しやすいという特徴があります。

一方、一般的な脊髄くも膜下麻酔は一度の注入で効果を得る方法です。注入した薬剤の効果が弱くなった場合、硬膜外麻酔のように同じカテーテルから追加することはできません。

手術時間が長くなると予想される場合には、硬膜外麻酔や両者を組み合わせた方法が検討されます。

全身麻酔と比較した場合のメリット・デメリット

全身麻酔は、薬剤によって意識をなくし、必要に応じて気管挿管や人工呼吸などで呼吸を管理しながら手術を行います。

脊髄くも膜下麻酔の場合は、意識を保ちながら手術を受けられるため、術後の覚醒を待つ必要がないことが特徴です。

ただし、脊髄くも膜下麻酔では、麻酔の効く範囲や持続時間に制約があります。胸部や上腹部など、麻酔範囲が適さない手術では全身麻酔が選ばれることもあります。

どちらが優れているかではなく、手術内容と患者の状態に合っているかが判断の基準です。

脊髄くも膜下麻酔ができない場合もある

次のような状態では、脊髄くも膜下麻酔を避けたり、別の麻酔方法を選んだりすることがあります。

- 血液が固まりにくい、または凝固機能に異常がある。
- 抗凝固薬などを使用しており、出血リスクが高い。
- 針を刺す部分に感染がある。
- 全身状態が不安定で、別の麻酔方法が適切と判断される。
- 緊急手術で、より速やかに麻酔を導入する必要がある。

抗凝固薬や抗血小板薬を服用している場合、自己判断で薬を中断するのではなく、必ず麻酔科医に服薬状況を伝えることが大切です。

日本産科麻酔学会も、血液凝固異常や緊急性の高い状況では、全身麻酔を選択する場合があると説明しています。

【5】脊髄くも膜下麻酔の副作用は?血圧低下・頭痛・神経障害を解説

脊髄くも膜下麻酔

脊髄くも膜下麻酔は広く使用されている麻酔方法ですが、副作用や合併症が起こる可能性があります。

重要なのは、麻酔の作用に伴って起こりやすい一時的な症状と、頻度は低いものの迅速な対応が必要な合併症を区別することです。

① 血圧低下

注意したい副作用

脊髄くも膜下麻酔で特に注意される副作用の一つが血圧低下です。

背骨の周囲には、血管の収縮や拡張を調節する交感神経が走っています。麻酔薬がこの神経にも作用すると、血管が拡張して血圧が下がることがあります。

血圧が大きく低下すると、次のような症状が現れる場合があります。

- めまい
- 吐き気
- 冷や汗
- 気分不良
- ふらつき
- 意識が遠のくような感覚

特に帝王切開では、母体の血圧が下がると胎盤を通じた赤ちゃんへの血流にも影響する可能性があるため、慎重な管理が必要です。

血圧低下への対応

手術中は血圧計や心電図、酸素飽和度などを使って全身状態を監視します。

血圧が下がった場合には、状況に応じて次のような処置を行います。

- 血圧を上げる薬の投与
- 点滴による循環血液量の管理
- 体位の調整
- 血圧や心拍数の継続的な確認

日本産科麻酔学会の患者向け資料でも、血圧低下は局所麻酔の作用に伴う副作用として説明され、発生時には速やかな治療を行うとされています。

② 脊髄くも膜下麻酔後の頭痛

術後に注意したい症状

脊髄くも膜下麻酔を受けた後に、頭痛が発生することがあります。

これは「硬膜穿刺後頭痛」と呼ばれるもので、針を刺した部分から脳脊髄液が漏れることが関係しています。

脳脊髄液が漏れることで頭蓋内の圧力などに変化が生じ、頭痛につながると考えられています。

特徴的な症状

- 頭や首の痛み
- 起き上がると強くなる頭痛
- 横になると軽くなる頭痛
- 吐き気
- 耳鳴りや聞こえ方の変化

特に、座ったり立ったりすると頭痛が強くなり、横になると軽くなるという特徴があります。

日本麻酔科学会の一般向け資料では、脊髄くも膜下麻酔後の頭痛の発生頻度は約0.5%、つまり170〜200人に1人程度と紹介されています。

ただし、使用する針の種類や太さ、患者の年齢、妊娠などの条件によって発生頻度は変わります。

頭痛が起きたときの対応

軽い症状であれば、医療スタッフの判断のもとで安静や鎮痛薬による治療を行います。

症状が強い場合や改善しない場合には、硬膜外血液パッチという治療が検討されることがあります。

これは患者自身の血液を硬膜外腔に注入し、血液が固まる作用を利用して脳脊髄液の漏れを抑える処置です。

頭痛を単なる麻酔の後遺症と考えて放置せず、症状が出たら医療機関に相談することが大切です。

③ 吐き気・嘔吐

麻酔による血圧低下や手術中の刺激などによって、吐き気や嘔吐が起こる場合があります。

特に帝王切開では、血圧低下が吐き気の原因になることがあります。

血圧の管理や制吐薬の使用などによって対応します。

④ 排尿困難

麻酔薬は、痛みを伝える神経だけでなく、膀胱の働きに関係する神経にも作用します。

そのため、麻酔が効いている間や効果が切れた直後に、尿意を感じにくくなったり、尿を出しにくくなったりする場合があります。

必要に応じて尿道カテーテルを使用し、排尿を補助します。

⑤ 足のしびれや運動機能の低下

麻酔が効いている間は、足に力が入りにくくなり、自分の意思で動かしにくくなります。

これは麻酔の作用に伴う一般的な反応であり、薬の効果が弱まるにつれて回復していくのが通常です。

ただし、麻酔が切れた後も強いしびれや筋力低下が続く場合には、医師の診察が必要です。

⑥ まれに起こる重い合併症

発生頻度は低いものの、次のような重い合併症にも注意が必要です。

合併症 主な特徴
神経障害 下肢の感覚異常や運動障害
血腫 血液のかたまりが神経を圧迫する
感染・膿瘍 注射部位や神経周囲に感染が起こる
高位脊髄くも膜下麻酔 麻酔が予想より高い範囲に広がり、呼吸や循環に影響する

特に、麻酔後に強い背中の痛み、進行する足の麻痺、排尿・排便障害、発熱などが現れた場合には、速やかに医療機関へ連絡してください。

日本麻酔科学会の資料では、神経障害や血腫などについても解説されており、まれな合併症を早期に発見するための観察が重要です。

【6】脊髄くも膜下麻酔を受ける前に知っておきたい注意点と判断基準

麻酔を安全に受けるためには、手術当日の処置だけでなく、事前の健康状態の確認や術後の経過観察も重要です。

麻酔前に医師へ伝えておきたいこと

診察時には、次の情報を正確に伝えてください。

- 現在服用している薬
- 血液を固まりにくくする薬の使用歴
- 薬剤や消毒薬などのアレルギー
- 出血しやすい体質や血液疾患
- 心臓・肺・腎臓などの持病
- 過去に受けた手術や麻酔でのトラブル
- 腰や背骨の病気、手術歴
- 現在の感染症や発熱の有無

特に抗凝固薬や抗血小板薬は、麻酔の方法や実施できるタイミングに関係する場合があります。

薬の中断や再開は、必ず担当医の指示に従ってください。

麻酔後に気をつけたいこと

麻酔からの回復中は、足の感覚や筋力が十分に戻っていないことがあります。

そのため、次の点に注意が必要です。

1.一人で立ち上がらない

足に力が入らない状態で立ち上がると転倒する危険があります。歩行を始めるタイミングは医療スタッフに確認してください。

2.頭痛や吐き気を我慢しない

頭痛、めまい、吐き気などが生じたら、すぐに看護師や医師へ伝えましょう。

3.排尿状態を確認する

麻酔後に尿が出にくくなることがあります。尿意がない場合や排尿できない場合も相談してください。

4.水分や食事は医師の指示に従う

術後の飲食開始時期は、手術内容や全身状態によって異なります。自己判断で飲食を再開しないことが大切です。

どのような人に適している?

脊髄くも膜下麻酔が選択肢になりやすいのは、次のような条件に該当する人です。

- 手術部位がへそより下にある。
- 比較的短時間で終了する手術を予定している。
- 下半身の痛覚を遮断することで手術が可能である。
- 意識を保った状態で手術を受けられる。
- 出血や感染など、実施を妨げる医学的条件がない。

反対に、長時間の手術、広範囲の麻酔が必要な手術、血液凝固異常がある場合などは、別の麻酔方法が検討されます。

大切なのは、患者自身が麻酔方法を決めつけるのではなく、手術内容と健康状態に応じて麻酔科医と相談することです。


【7】脊髄くも膜下麻酔に関するよくある質問(FAQ)

Q1:脊髄くも膜下麻酔は痛いですか?

A1:最初に皮膚へ局所麻酔を行うため、針を刺す際の痛みは軽減されます。ただし、最初の注射でチクッとした痛みや圧迫感を覚える場合があります。処置中に足へ電気が走るような感覚や強い痛みがあれば、すぐに医師へ伝えてください。

Q2:脊髄くも膜下麻酔の効果は何時間続きますか?

A2:一般的には約3〜6時間が目安です。使用する薬剤や投与量によって違いがあり、麻酔が切れるとともに足の感覚や運動機能が徐々に戻ります。手術後の痛みには別途、鎮痛薬を使用することがあります。

Q3:脊髄くも膜下麻酔で頭痛が起こるのはなぜですか?

A3:針を刺した部分から脳脊髄液が漏れることで、硬膜穿刺後頭痛が生じる場合があります。起き上がると痛みが強くなり、横になると軽くなるのが特徴です。症状が続く場合は医師に相談し、必要に応じて硬膜外血液パッチなどの治療を検討します。

Q4:脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔はどちらが安全ですか?

A4:どちらか一方がすべての患者にとって安全というわけではありません。脊髄くも膜下麻酔は比較的速やかに効果が現れ、硬膜外麻酔はカテーテルによる追加投与が可能です。手術内容や患者の健康状態によって適切な方法が選択されます。

Q5:脊髄くも膜下麻酔を受けると手術中に意識はありますか?

A5:通常は意識があります。下半身の痛みを感じる神経の働きを抑える方法なので、医師や看護師の声を聞いたり、会話したりできます。ただし、触られる感覚や押される感覚が残る場合があります。

Q6:脊髄くも膜下麻酔が帝王切開で選ばれるのはなぜですか?

A6:比較的短時間で麻酔効果が得られ、母親の意識を保ったまま手術を行えるためです。全身麻酔に伴う気管挿管などを通常は必要とせず、赤ちゃんの産声を聞けることも特徴です。ただし、緊急性や母体の状態によって全身麻酔が選択されることもあります。


まとめ:脊髄くも膜下麻酔は仕組みと副作用を理解して選ぶことが大切

脊髄くも膜下麻酔は、腰から脊髄くも膜下腔に局所麻酔薬を注入し、主に下半身の痛覚を遮断する麻酔方法です。

比較的速やかに効果が現れ、約3〜6時間を目安に麻酔作用が続くことから、帝王切開や下肢の手術などで幅広く活用されています。

一方、血圧低下や吐き気、排尿困難、硬膜穿刺後頭痛などの副作用があり、まれに神経障害や血腫などの重い合併症も発生します。

今回の内容から押さえておきたい判断基準は、次の3点です。

1. 手術との相性: 下半身を対象とする手術に適しているが、すべての手術に使用できるわけではない。
2. 麻酔方法の違い: 速やかな効果を得たい場合と、長時間の鎮痛を必要とする場合では、硬膜外麻酔など別の方法も選択肢になる。
3. 副作用への備え: 血圧低下や頭痛などの症状を理解し、異常を感じたら速やかに医療スタッフへ伝える。

【プロの結論】

脊髄くも膜下麻酔を理解するうえで最も大切なのは、「下半身の痛みを抑える麻酔」という特徴だけでなく、麻酔の効果が及ぶ範囲、持続時間、全身への影響まで把握することです。

硬膜外麻酔や全身麻酔には、それぞれ異なる役割があります。麻酔の安全性は手技だけで決まるものではなく、術前評価、手術中の血圧・呼吸管理、術後の経過観察を含めた総合的な医療体制によって支えられています。

手術を控えている場合は、麻酔科医に自分の健康状態や服薬状況を伝え、期待できる効果とリスクを確認したうえで、納得できる麻酔方法を選ぶことが大切です。

主な参考資料:公益社団法人日本麻酔科学会「麻酔を受けられる方へ」、一般社団法人日本産科麻酔学会「帝王切開の麻酔Q&A」、慶應義塾大学病院「KOMPAS 手術の麻酔」、日本産婦人科医会「標準的な脊髄くも膜下麻酔法」。

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榊原 真央

取材デスクとして10年以上の取材経験。geinou領域の公式発表・配信元の告知を一次情報として確認し、確認できない情報は記事に含めない方針です。

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