似た意味を持つ表現でも、言葉の選び方によって相手に与える印象は変わります。
特に、「ご遠慮ください」と「お控えください」は混同されやすい言葉です。どちらも行動を慎むよう求めますが、ニュアンスには違いがあります。
1. 「ご遠慮ください」と「お控えください」
この2つは、基本的に同じ内容を伝える表現です。
ただし、言葉の響きには違いがあります。
- ご遠慮ください: 漢語を使ったやや改まった表現。注意や禁止に近い印象を与えることがある。
- お控えください: 和語を使った比較的柔らかい表現。相手に配慮しながら行動を慎むよう求める。
国立国語研究所も、和語の「お控え」は漢語の「御遠慮」より柔らかく感じられ、禁止の度合いも弱く受け取られる可能性があると説明しています。
例えば、顧客に携帯電話の使用を控えてほしい場合は、「携帯電話のご使用はお控えください」とすると、比較的穏やかな案内になります。
一方、施設の利用ルールとして明確に伝えたい場合は、「携帯電話の使用はご遠慮ください」も適しています。
2. 「ご遠慮ください」と「ご遠慮願います」
「ご遠慮願います」も、相手に行動を控えるよう求める表現です。
違いは、伝え方の印象にあります。
「ご遠慮ください」は相手に直接行動を求める表現ですが、「ご遠慮願います」は控えてほしいという要望を、事務的に伝える響きがあります。
どちらが常に丁寧というわけではありません。
例えば、次のように使い分けられます。
- ご遠慮ください:会場内での飲食はご遠慮ください。
- ご遠慮願います:関係者以外の入室はご遠慮願います。
- ご遠慮いただけますと幸いです:恐れ入りますが、当日の撮影はご遠慮いただけますと幸いです。
掲示物や規則の案内なら「ご遠慮願います」、相手との関係性を重視するメールなら「ご遠慮いただけますと幸いです」が使いやすいでしょう。
3. 「ご遠慮ください」と「ご容赦ください」
この2つは、意味が異なるため注意が必要です。
「ご容赦ください」は、相手に許しを求める表現です。
例えば、次のような使い方をします。
- 返信が遅れますことをご容赦ください。
- 品切れの際はご容赦ください。
- 急な予定変更につきましてはご容赦ください。
一方、「ご遠慮ください」は相手の行動を控えるよう求めます。
つまり、相手に何かをしないでほしいときは「ご遠慮ください」、こちらの事情を理解して許してほしいときは「ご容赦ください」が適しています。
4. 似た表現を間違えないための判断基準
迷った場合は、何を相手に伝えたいのかを考えると選びやすくなります。
- 相手の行動を柔らかく制限したい:「お控えください」
- 一般的な注意を伝えたい:「ご遠慮ください」
- 明確な禁止事項を伝えたい:「禁止しております」「お断りしております」
- 相手に配慮して依頼したい:「ご遠慮いただけますと幸いです」
- こちらの事情を許してほしい:「ご容赦ください」
この区別を理解しておけば、敬語の正しさだけにとらわれず、状況に合った表現を選べます。
【ビジネスメールの例文】目上の人にも失礼にならない使い方

ビジネスメールでは、相手との関係性や依頼の重要度によって表現を調整する必要があります。
「ご遠慮ください」をそのまま使っても問題ない場面はありますが、取引先や上司に対しては、前置きや理由を添えることで、より配慮の伝わる文章になります。
1. 上司に行動を控えてもらいたい場合
例えば、社内の機密資料を社外に共有してほしくない場合です。
件名:資料の取り扱いについてのお願い
お疲れさまです。
恐れ入りますが、こちらの会議資料につきましては、情報管理上の理由により、社外への転送をお控えいただけますと幸いです。
お手数をおかけいたしますが、ご理解とご協力のほど、よろしくお願いいたします。
この文章では、最初に「恐れ入りますが」と前置きし、続けて依頼の理由を説明しています。
単に「転送はご遠慮ください」と伝えるよりも、相手への配慮が感じられる表現です。
2. 取引先に撮影を控えてもらいたい場合
商談会やセミナーなどで、撮影を控えてほしいときに使える例文です。
件名:イベント当日のお願い
いつもお世話になっております。
当日のイベントにつきまして、登壇者の権利保護および運営上の都合により、会場内での写真撮影・録音・録画はご遠慮いただけますと幸いです。
皆様に安心してご参加いただくため、ご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。
「ご遠慮いただけますと幸いです」は、相手に協力を求めるニュアンスが強いため、取引先への依頼にも使いやすい表現です。
ただし、撮影が明確な禁止事項である場合は、そのことも分かるように記載しましょう。
3. 顧客に迷惑行為を控えてもらいたい場合
店舗やサービスの利用者に対して、ほかのお客様への迷惑となる行為を控えてもらう場合です。
件名:施設のご利用に関するお願い
平素より当施設をご利用いただき、誠にありがとうございます。
すべてのお客様に快適にお過ごしいただくため、大声での会話や長時間の場所の占有はお控えくださいますようお願いいたします。
皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます。
この例では、「お控えくださいますようお願いいたします」とすることで、利用者への配慮を示しながら注意を伝えています。
4. 目上の人に直接注意するとき
メールではなく、会話で相手に行動を控えてほしいと伝える場合は、前置きが特に重要です。
使いやすい例は次のとおりです。
- 「恐れ入りますが、こちらの件については、しばらくお控えいただけますでしょうか。」
- 「大変恐縮ですが、こちらでのご発言はお控えいただけますと助かります。」
- 「申し訳ございませんが、その資料の共有はご遠慮いただければと存じます。」
相手の立場を尊重しつつ、何を控えてほしいのかを具体的に伝えることがポイントです。
なお、文化庁の敬語に関する解説でも、依頼には前置きや婉曲的な表現を用い、相手への負担を考慮することが大切だとされています。
【案内文・掲示物】「ご遠慮ください」を使った正しい例文
施設や店舗、イベント会場などでは、「ご遠慮ください」がよく使われます。
掲示物は短い文章で多くの人に内容を伝える必要があるため、ビジネスメールとは異なる表現の工夫が大切です。
1. 店舗・飲食店での案内文
店舗内のお願い
いつも当店をご利用いただき、ありがとうございます。
ほかのお客様のご迷惑となりますので、店内での大声での会話はお控えください。
また、店内への飲食物のお持ち込みはご遠慮ください。
皆様のご理解とご協力をお願いいたします。
飲食店では、何を控えてほしいのかを具体的に記載することが大切です。
2. イベント・セミナー会場での案内文
ご来場の皆様へのお願い
- 会場内での飲食はご遠慮ください。
- 公演中の携帯電話の使用はお控えください。
- 許可のない写真撮影・録音・録画はご遠慮ください。
- 通路や出入口付近での立ち止まりはご遠慮ください。
円滑なイベント運営のため、皆様のご協力をお願いいたします。
イベント会場では、短く明確な表現が適しています。
特に撮影や録音など、権利保護に関わる行為については、単に「ご遠慮ください」とするだけでなく、許可の有無や対象範囲を明記すると誤解を防げます。
3. 病院・公共施設での案内文
施設をご利用の皆様へ
当施設では、すべての方に安心してご利用いただけるよう、以下の行為をお控えいただいております。
- 待合室での大声での会話
- 他の利用者への迷惑となる行為
- 許可のない施設内での撮影
皆様のご理解とご協力をお願いいたします。
公共施設では、利用者の年齢や日本語の理解度もさまざまです。
そのため、難しい表現を重ねるよりも、短く分かりやすい文章にが必要です。
4. 本当に禁止したい場合は「禁止」と明記する
ここは案内文を作成する際の要点です。
「ご遠慮ください」は、柔らかく伝えられる一方で、受け手によってはお願いとして解釈される可能性があります。
例えば、次のように使い分けると明確になります。
| 伝えたい内容 | 適切な表現 |
|---|---|
| 協力をお願いしたい | ご協力をお願いいたします |
| 行動を控えてほしい | ご遠慮ください |
| 柔らかく注意したい | お控えください |
| 規則として禁止したい | 禁止しております |
| 利用を認めない | お断りしております |
| 安全上の制限を明示したい | 立ち入り禁止です |
禁止事項を曖昧にすると、利用者とのトラブルにつながることもあります。
相手に配慮することと、ルールを明確にすることは両立できます。
【英語表現】「ご遠慮ください」は英語で何と言う?
外国人観光客や海外の取引先に対して「ご遠慮ください」と伝える場合、日本語のニュアンスをそのまま直訳するのではなく、状況に合った英語を選ぶことが大切です。
代表的な表現は次のとおりです。
1. Please refrain from ~.
「~をお控えください」「~はご遠慮ください」という意味です。
例えば、次のように使います。
- Please refrain from smoking.
- 喫煙はご遠慮ください。
- Please refrain from using your cell phone.
- 携帯電話の使用はご遠慮ください。
- Please refrain from taking photographs.
- 写真撮影はご遠慮ください。
「refrain from」の後ろには、名詞または動詞のing形を置きます。
2. Please do not ~.
「~しないでください」という意味です。
- Please do not enter.
- 立ち入りをご遠慮ください。
- Please do not take photographs.
- 写真撮影はご遠慮ください。
- Please do not touch.
- 触れないでください。
注意書きや禁止事項を伝える場合に適しています。
3. We kindly ask you to refrain from ~.
「恐れ入りますが、~をお控えいただくようお願いいたします」という意味です。
例えば、
We kindly ask you to refrain from using mobile phones during the presentation.
「プレゼンテーション中の携帯電話の使用はお控えくださいますようお願いいたします。」
海外の取引先やイベント参加者に対して、丁寧に依頼したい場合に使えます。
4. Thank you for not ~.
「~をしないでいただき、ありがとうございます」という意味で、英語圏の掲示物などで使われる表現です。
例えば、
Thank you for not smoking.
「禁煙にご協力いただきありがとうございます。」
という意味になります。
英語では、禁止を直接伝える表現と、協力への感謝を先に伝える表現を使い分けることがあります。
日本語の「ご遠慮ください」に近い英語表現については、日本語学習者向けの「日本語でケアナビ」でも、Please refrain from ~という訳が紹介されています。
【よくある質問】「ご遠慮ください」に関するFAQ
Q1:「ご遠慮ください」は敬語として間違っていますか?
A1:いいえ、文法的に間違った敬語ではありません。「ご~くださる」という尊敬表現を使った言い方です。ただし、相手に行動を控えるよう直接求めるため、場面によっては強い印象になることがあります。
Q2:「ご遠慮ください」は禁止という意味ですか?
A2:必ずしも法律上の禁止を意味するわけではありません。基本的には行動を控えるよう求める依頼ですが、施設の掲示や利用規則では、事実上の禁止として使われることがあります。
Q3:「お控えください」と「ご遠慮ください」はどちらが丁寧ですか?
A3:どちらも丁寧な表現ですが、「お控えください」の方が柔らかく感じられる傾向があります。「ご遠慮ください」は改まった印象があり、注意事項にも適しています。
Q4:目上の人に「ご遠慮ください」と使っても失礼ではありませんか?
A4:文法上は問題ありません。ただし、直接的な依頼になるため、上司や取引先には「恐れ入りますが、お控えいただけますと幸いです」などの表現が適しています。
Q5:「ご遠慮願います」は「ご遠慮ください」より丁寧ですか?
A5:一概には言えません。「ご遠慮願います」は簡潔で事務的な印象があり、掲示や案内文に向いています。相手への配慮をより明確に伝えたい場合は「ご遠慮いただけますと幸いです」が使いやすいでしょう。
Q6:ビジネスメールで使える最も柔らかい言い換えは何ですか?
A6:「ご遠慮いただけますと幸いです」「お控えいただけますと幸いです」などがおすすめです。「恐れ入りますが」などの前置きと、行動を控えてほしい理由を添えると、より自然な文章になります。
Q7:「ご遠慮ください」を英語で伝える場合は何と言いますか?
A7:一般的には「Please refrain from ~」が使えます。禁止を明確に伝える場合は「Please do not ~」、ビジネス向けに丁寧に依頼する場合は「We kindly ask you to refrain from ~」が適しています。
まとめ:「ご遠慮ください」は相手と場面に合わせて使い分けよう
「ご遠慮ください」は、相手に特定の行動を控えてもらいたいときに使う、正しい敬意表現です。
ただし、丁寧な言葉であっても、相手に行動を控えるよう直接求めるため、場面によっては強い印象を与えることがあります。
使い分けの要点は、次の3つです。
1. 一般的な注意や案内には「ご遠慮ください」を使う。
2. 柔らかく依頼したいときは「お控えください」「ご遠慮いただけますと幸いです」を選ぶ。
3. 明確な禁止事項には「禁止しております」「お断りしております」と伝える。
特にビジネスメールでは、敬語の形式だけで判断するのではなく、相手の立場、依頼の内容、伝える理由を考えることが大切です。
国立国語研究所や文化庁の敬語に関する解説からも分かるように、適切な敬語とは、単に丁寧な言葉を並べることではありません。相手や状況に合った表現を選び、伝えたい内容を誤解なく届けることに意味があります。
「ご遠慮ください」を使う際は、相手にどのような印象を与えるか、そして本当に伝えたいことが依頼なのか禁止なのかを意識してみてください。それだけでも、日常会話やビジネスシーンでの言葉遣いは、より自然で伝わりやすいものになります。